読めるのに聞き取れない:フランス語に必要な語数と、その覚え方
フランス語には、英語のときのような「見せかけの貯金」がありません。そのぶん誤って覚えた語を直す作業も要らず、六千語をまっすぐ積むことになります。
日本語に入っているフランス語は分野が偏っています
クロワッサン、アトリエ、デッサン、コンクール、アンケート。定着したフランス語由来語は料理、美術、服飾に集中していて、数も多くありません。しかも意味がずれたものが混じります。アンケートはフランス語では調査や捜査を指し、街頭アンケートの意味は薄いです。
つまり出発点はほぼゼロです。英語を学んだときに苦労した「知っているつもりの語を直す」工程がないぶん、進み方は素直になります。
英語の経験が効くところ、邪魔するところ
ラテン文字をすでに読めるので、文字の習得が要りません。語彙も重なります。英語のラテン系語彙の多くはフランス語から入ったものなので、nation、question、table、message、danger は綴りがほぼ同じです。
発音は逆に邪魔をします。同じ綴りを英語式に読む癖がつくと聞き取りが崩れます。最初から音を一緒に保存してください。
何語でフランス語のどこまで分かるのか
言語学では語彙量をカバー率で測ります。ポール・ネイションの調査による数字は、フランス語にもそのまま当てはまります。
| 語族の数 | 話し言葉のカバー率 | できること |
|---|---|---|
| 1,000 | 85% | 身近な話題の簡単なやりとり |
| 3,000 | 95% | 新聞が読め、フランス語字幕の映画が追えます |
| 6,000〜7,000 | 98% | ラジオ、字幕なしの映画、複数人が同時に話す食卓 |
最後の段が一番読み違えられます。複数人の会話では繰り返しも速度調整も字幕もありません。95%と98%の差が、参加するのか頷くだけなのかの差になります。
日本語話者はフランス語の何でつまずくのか
- 名詞の性。日本語に対応する概念がないため手がかりがありません。le pain、la table のように冠詞ごと一語として記憶してください。
- 動詞の活用。一つの動詞に数十の形があります。頻度の高い現在形と複合過去に絞るのが現実的です。
- 音の区別。vin と vent と vont、tu と tout。日本語の母音体系では同じ音に潰れ、潰れた瞬間に複数の語が一つの記憶に統合されます。
書いた形と聞こえる形が違います
フランス語は書く文字の数と発音する音の数が合いません。parle、parles、parlent は綴りが三通りで音は一つです。さらに語と語をつなげて発音するので、les amis は「レザミ」になります。
amis を単独で覚えた人は、les amis の中でそれを聞き取れません。だからフランス語のカードは、他の言語より句の単位にする価値が高くなります。il y a、on y va、je n'ai pas はまとめて一つの音として持っておくほうが実用的です。
どの6,000語を、どの順で
フランス語の頻度曲線は急です。être、avoir、faire、aller、dire はどこにでも出ますが、辞書の大半の項目はほとんど姿を見せません。上位千語を先に固めるほうが、無作為の三千語より多くの理解を買えます。
段階の目安
- 500語:買い物、注文、道を尋ねる。
- 1,000語:相手が気を遣ってくれれば会話が成立します。
- 3,000語:新聞が読め、フランス語字幕つきの映画が追えます。
- 6,000語:字幕なしの映画、ラジオ、複数人が同時に話す食卓。
読解と聴解の差がここまで開く言語は多くありません。同じ三千語を持つ二人でも、目で覚えたか耳で覚えたかによって会話の力は一段変わります。
テーマ別リストの落とし穴
料理や旅行といったテーマ別の単語帳は取り組みやすい形をしていますが、テーマの中で頻度による絞り込みがされていないことがよくあります。四十語の料理リストのうち、実際に再会するのは十語ということが起こります。
テーマで区切るのは記憶の助けとして有効です。ただしその中身が頻度順に並んでいるかどうかを確かめてください。French Progress の6,000語は実使用の頻度順に並べたうえで、テーマごとにまとめてあります。
フランス語は一日何語なら続くのか
一日十語なら、学習五分に復習を足して四か月で千語、一年で三千語に届きます。詰まるのは覚える側ではなく忘れる側で、そこを引き受けるのが間隔反復です。
一日三十語は二週間だけ調子よく見えます。その後に復習量が三倍になり、続かなくなります。今日追加した一語は、これから数か月分の復習を一緒に買っています。